くうねるたべる。

「すごくおとなしい女の子だと思ってた!」最初だけはそう言われます。書く仕事をしていますが、文章はあまり得意ではありません。コスメマニア。

Aqua Timez「いつもいっしょ」が好きだったあなたへ

 

忘れられない人がいる。

高校2年から大学1年の夏まで付き合っていた人だ。

 

先に言っておくと、けっして漫画みたいなドラマティックな大恋愛ではない。

忘れられないといっても彼と付き合った年月は2年にも満たなかったし、よくある普通の恋愛だった。

 

そのあと何人かの人と恋をしたし大学を卒業して社会人になったけれど、今でもふとした瞬間に思い出してしまう。

 

 

彼とは高校2年生のときに同じクラスになった。

第一印象は雲の上の人。

ほんの少しだけ早口な声で、サッカー部の仲間をよく笑わせていた。顔立ちは整っていたが、女子をどこか寄せつけない雰囲気もあった。

身長は162センチの私と同じくらいだったが、顔は私よりも小さかった。

 

 

ひょんなことから彼を含めて男女8人ほどのなかよしグループができた。きっかけはなんだっただろう。覚えていないけど。

当時まだ普及したてのLINEで、グループトークでやりとりをし始めた。

 

みんなで海に行ったり花火をしたりマリオパーティーをしたりするなかで、彼の笑顔が好きになった。

海に行ったとき、歩くのが遅かった私に歩幅を合わせてくれた。どこかつめたい人だと思っていたけどあたたかい人柄だと知った。

 

彼との接点が増えるうちにどんどん好きな気持ちが募っていった。

 

まだ残暑が厳しかったように思う。

いつものようにLINEでたわいもないやりとりをしていると、突然彼から「今から行くから」とメッセージが届いた。驚きやらなんやらで心拍数は急上昇。

部活の練習試合を終えたという彼は、私の自宅近くの公園まで来てくれて「好きだよ」と言ってくれた。

 

「俺のこと好きなんだなってバレバレだったよ。だったら1日でも早く言った方がいいなって友達から後押しされて言いに来た」と彼は笑った。

 

クラスみんながびっくりした顔をしていたが祝福してくれた。ありがたいことに友人たちは毎月の交際記念日のたびにお菓子やメッセージをくれた。

 

彼の部活が休みの日は、学校から最寄り駅まで歩いて1時間ほどの距離を喋りながら送ってくれた。歩くのは苦手だったけど彼といればあっという間だった。 

地元の商業施設はもちろん、近くの河原や公園でたわいもない話をした。彼と一緒にいればどこでも楽しかった。

冬に行ったディズニーランドでは、打ち上がる花火を見ながら「ちょっと早いクリスマスね」とネックレスを首にかけてくれた。私は嬉しくて毎日のようにつけた。

 

3年生になっても、奇跡的に同じクラスになった。

うれしくてうれしくて、「本当に夢みたいだ」と彼に話したら彼に馬鹿にされた。そのときはちょっぴり彼も笑っていたように思う。

受験期間になれば教室に残って勉強した。お昼は恥ずかしさを我慢しながらもいっしょにお弁当を食べてくれた。授業中も同じ空間にいるのに、たわいもないスタンプのやりとりをして視線を合わせて笑った。 

 

彼は、Aqua Timezの「いつもいっしょ」という曲が好きだった。

イヤホンを貸してくれて、公園のベンチで聴いた。

 

僕は目をそらされるのが嫌で 自分から目をそらす男の子です ありったけの勇気で君の小さな手を握りしめた 君は手を離されるのがこわくて 自分から手をほどく女の子です ありったけの勇気で 僕の手を握り返してくれた 

 

一度別れた男女がまた再会し、よりを戻すというあたたかい曲だと思った。

 

この曲を知らなかった私はすぐにレンタルショップに走った。

その日から「いつもいっしょ」は私のお気に入りの曲になった。

 

 

楽しい日々は、私のわがままで長くは続かなかった。

ツンツンしていたけど、愛情表現はきちんとしてくれた彼だった。愛されているのはわかりながらも「私のことが好きならばもっとこうしてくれるでしょ?こうあるべきでしょ?」と思っていたのだ。

 

大学受験の期間は成績が上がらずいらいらして不安ばかりが募った。

何を考えたのか私は「しばらく連絡取るのをやめよう」と放課後、人目もはばからず教室で泣いた。情緒不安定だった私の手を握って「好きにしたらいいよ」と慰めてくれた。

 

春。

 

私は第一志望に落ち、彼は第一志望に合格した。

当たり前だ。こんな私が合格するわけがなかった。卒業後は別々の学校に通うことになった。

 

互いにバイトとサークルを始め、彼とは少しずつ疎遠になった。

 

どうしても許せないことが重なった。

せっかくの鎌倉デートなのに「着ようと思ってたシャツをおかんが洗濯しちゃってて服探してたわ」と家族のせいにして悪びれもせず1時間遅刻してきた。

私がサークルの話をしても「どうでもいいなあ」と興味なさげだった。

自分に自信のなかった私は、彼の周りにうようよいるであろう顔も名前もどこの骨かもわからない女たちに嫉妬した。

 

なんとなく、言葉には表せないけれどふたりの間に不穏な空気が流れていた。

 

最後のデートは池袋だった。

特に何するでもなく、終始私は不機嫌だった気がする。まだ夕方なのに、さっさと解散してしまった。

改札の向こうに消える彼を見て「これで会うのは最後かもしれないなあ」とどこか冷静な自分がいた。

 

その後、私はLINEで長々と別れの文章を送った。

数時間後、「俺もそのほうがいいと思っていた」との返事が来た。

 

引き止めてもらえるのではないかと思ったが、あっけなく終わってしまった。

 

 

これでおしまい。

なんのオチもないよくある普通の話だ。

本当に忘れたころ時たま出てくる友人のSNSの写真でしか彼の姿を見ることはない。

 

嫌われても何を言われてももっと考えていることを話せばよかった。

 

今でも「いつもいっしょ」を聴くと、あのころを思い出す。

 

どうか、彼が元気で幸せでありますように。